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「ドライエイジングビーフ普及協会」への大きな期待 日本ドライエイジングビーフ普及協会委員
本間千枝子

長い生涯のうち、たった7年間暮らしたアメリカだが、生まれついての食いしん坊女は、その後の食生活にさまざまな影響を受けた。
影響の一番大きかったのは食肉類、中でも牛肉の料理だったと思う。したがって‘09年「ドライエイジングビーフ普及協会」の発足を、私は心から歓んでいる一人である。

門前の小僧の例もあるが、学者の女房の故か食べものについても古い本新しい本、と読みあさる愉しさを知ってしまった私は、何を何カップ使いどう料理するのかの世界ではなく、また、どこのレストランが素晴らしいという情報でもなく、ひたすら人間は何をどう食べてきたかに興味を抱いた。

人間が牛を食べるようになって1万年といわれるが、旧世界ヨーロッパは各地方によって解体の仕方が異なるという事実や、冷蔵技術が開発される前の食肉には季節のほかにも限りない制約があったなどは、想像をはるかに超えた物語ですらある。

ちなみに日本の天皇が初めて牛肉を召し上がったのは1872年(明治5年)とのことだが、この時のビーフはあるいはドライエイジングであったふしが大いにある。

アメリカの本によれば、ドライエイジングはエイジングの方法としては最も基本的なもので、肉質はよりおいしいが今では極めて少なくなった方法だという。もうひとつのウエットエイジングは冷蔵・冷凍の設備が開発され、プラスティックによる真空パック方式が確立してから始まった。今日ではこの方法が主流であり、専門家が多いこの会で私が書くのは不謹慎だが、簡単にいえばこれは「真空パック氷点貯蔵(cryovac)」、といっても温度は氷点より2、3度上で10日から28日間以内の熟成法ということが分かった。

しかし私がうれしかったのはドライエイジングの方が肉ははるかにおいしくなるという話だ。ドライエイジングによって完成した牛肉の表面のとくに乾燥した部分を削ぎとると、その肉質は余計な水分が減少しているためステーキなどはきめの細やかさ、風味とも比類なきものだという。

しかし水分も減少し削ぎ落す部分があるだけ高価なものになってしまう。ウエットエイジングでは水分も減少せず、味わいも良くなるということはないそうだ。

さて、アメリカにはもうひとつ古い保存法で塩水漬けがあるが、これがコーンドビーフ、あるいはパストラミ(ユダヤ系の言葉イディッシュ)である。ハッシュなどではなくハムのように薄切りにしたパストラミを何枚も重ねたサンドイッチのおいしさを日本でも味わえる日が来て欲しい。

ドライエイジングと塩水漬け、そして牧草で育った本来の牛、日本の牛肉料理も多様になる時が来た。原点を見直し、古いことが新しい脚光を浴びる時代である。

随筆家(食文化研究) 
早稲田大学仏文科中退。著書に『アメリカの食卓』(サントリー学芸賞受賞)、『女の酒の物語』、『世界の食文化・12・アメリカ』などがある。目下『食いしん坊・旅の万華鏡』執筆中。元三鷹市教育委員長。
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